ステージの前に |
この日は朝からベトナム料理を食べた。以前世界各地のベトナム料理探訪は楽しいかもしれないと書いたことがあったが、今回は日本、フィリピンに続く三回目。先は長いが旅行に行く度に目的があって結構楽しい。
ダウンタウンのベトナム料理屋さんは、アメリカ的ファーストフード感覚な店ではなく、テーブルからお皿まですっかりベトナム的なお店だった。朝も早いせいか、店内にある地下室から食材をガンガン運び出していて活気に溢れている。お客さんもみんなベトナム人で、家族で来ていたり数人の若者が入って来たり、きれいなチャイナっぽい服を着ているおばさんがいたりする。
僕はブン・ボーとコーヒーを注文。巨大なカップに山盛りの氷とお茶が出てきたのにはびっくり。これはアメリカンかな?ブンボーはとてもおいしかった。素材にしても野菜にしてもベトナムで食べたときのものとそっくりそのままで、このあたりは日本のベトナム料理屋さんとはちょっと違うようだ。付け合わせの野菜もばっちりたくさん付いてくる。ただコーヒーはちょっといただけない。エスプレッソを二倍くらいにしたみたいな感じだった。値段はブンボーで6ドルくらい。
サンノゼのベトナム料理店、なんと65軒をいっきに紹介!(http://www.vietscape.com/restaurant/index.html) by Vietscape。
待ち合わせは5時半に会場で。
時間があるのでサンフランシスコまでカルトレインで出て、ユニオン・スクエアでシャツを購入。サンノゼと比べてサンフランシスコはとても賑やかだ。半日ウインドーショッピングをしてから再びサンノゼへ戻った。カルトレインのサンノゼ駅は、アリーナの目の前にある。アリーナに到着したのは5時だった。
地味ですが、Caltrainのホームページ。サンフランシスコ行きのアメリカンな2階だて列車かカルトレイン。(http://www.transitinfo.org/Caltrain/) by Vietscape。
交通マップでサンノゼを乗り切ろう!
開場は6時からだからまだほとんど人はいない。チケットカウンターで準備が始まっている。ケータイを片手に忙しそうに走り回る人たちや、スーツ姿で挨拶をしている人たちはコンサート関係者たちだろうか。
アリーナ脇の公園で一服していると、少しずつ人が集まってくる。公園でも少しずつベトナム語が聞こえ始めてきた。5時15分を回り始める頃、この脇の公園はちょっと違う感じの人の集まりであることに気付いた。めいめい何かスローガンが書かれた大きな紙を持ち、あるいはそれを木に張り付けている。あるものはメガフォンを持ち、あるものは木の棒と板を持ち、あるものは軍服を着ている。パトカーが2-3台アリーナと公園の前の道路に止まる。星条旗と、黄色に赤の三本線のストライプが入った旗が振られはじめた。ちょっと驚いた。これは旧南ベトナムの国旗だ。メガフォンからかけ声が流れる。10数人がメガフォンに合わせてかけ声をくり返す。これはデモであった。
写真1:デモの風景
写真1:横断幕拡大図
5時半に会場からT氏のケータイに電話をかけることになっていたので、チケッティングカウンター脇の電話ボックスで35セントを投入したところで、「Japanese?」と話し掛けられた。差し出された封筒には僕の名前が書かれている。
この方、H氏はT氏の友人で、コンサート前で忙しいT氏の代わりにチケットを届けにきてくれたのだそうだ。僕は夫婦でコンサートを見にきたH氏に案内されて会場に入ることになった。開場時間までH夫婦と話している間、T氏が一瞬登場。お土産のとらやの羊羹を渡す以外はほとんど話せずちょっと残念だったが、ようやくチケットは僕の手に。感動はひとしおだ。(いろいろ教えてくれたH氏夫妻に心から感謝します)
この間もデモは続いている。文化イベントの政治性はなかなか難儀な問題だ。シュプレヒコールは開場時間前にはますます大きくなり、開場を待つ人の列への訴えかけも激しくなる。
僕がこの写真を撮っているとき、話し掛けてくれた人がいた。「日本から来たんです」と自己紹介。彼はサンノゼの「ベリー・リトルサイゴン」、ライオンプラザの場所を教えてくれた。
6時になり開場。とうとう入場の瞬間だ!
カメラチェックを通過してチケットを切る。
ホールロビーでは無料パンフが配られている。
(表紙だけ、内緒でネ!......広告いっぱいの40ページにわたる豪華なパンフについて。パンフの内容分析つき)
フリーのタコス・フードのカウンターがいくつかと売店が並ぶきれいなロビーだ。会場スタッフがベトナム語で丁寧に座席の案内をしてくれる。もっともこればかりは英語の方がありがたい僕であったが。H氏は「彼は日本人だよ」と笑う。「へえ??」.....っと。中にはアオザイ姿でパンフを配ったり客席案内をしてくれる人もいる。いや〜、アオザイって本当にきれいだ......ついでに、着ている人もめっちゃきれいだ(^^);;
座席はVIPシートといういわゆる日本のアリーナ席。チケットに従って座席を探すと、なんとそこは5列目ど真ん中という最高の席なのであった!僕はこれまでこんなにいい席でコンサートを見たことがない。そういえば一度E-mailでT氏に「せっかく日本から行くし、いい席だったら、うれしいですけれども、あ、でも贅沢はいいません、チケットがありさえすれば、本物の歌手が一度でも目に入りさえすれば、どんなことろでも構いません」などと書いたのを思い出した。T氏は「関係者席を一枚あげよう」と言っていた。ま・さ・か、こんなに素晴らしい席にしてもらえるなんて!!T氏には感謝の言葉を言っても言い切れないほどである(本当に心から感謝します、ありがとう)。
3階席まであるこのアリーナは、アイスホッケーチーム・サンノゼ・シャークスの本拠地。こうした開場の特設ステージならではの、むき出しのステージの機械的な感じが、コンサート前の独特の時間を演出している。MCの音楽の低音がずしりと響き、高音が高い屋根から反響してくる。会場入りする観客の足音とコンサート前の口数の少ない、けれど期待に溢れた喧噪。
会場スポンサーのバナーにはサンノゼの有力企業の名が連なっていて、ステージ脇の巨大スクリーンモニターにはイベントのスポンサーのコマーシャルが流れている。化粧品や自動車販売、各種企業のベトナム語のコマーシャルが流れる。なかには日本料理店の広告もあった。MC音楽はすべてベトナムポップスだ。
ステージは奥にバンド。普通のバンドセッティングだが、なんとキーボードが4ブースもある。サンノゼ/アリーナは音響設備にも定評があるとのことだが、PAも立派で、バリライトがステージにどかんと降りていて迫力あるセッティングである。
H氏は少し横の席なので、残念ながらちょっとお別れ。観客は年齢層が幅広く見える。出演歌手の年齢層も幅広いから、それに合わせての観客という感じだ。けっこう高齢の人もたくさんいる。子供もたくさんいる。家族で見にきている人も多いようだ。全体的には若者が多い。玄関ロビーで入ってくる観客を見ていると、若者のカップルがやや多いようだ。次々と入ってくるのはみんなベトナム人だ。実際、会場をうめつくす12000人の観客をみると、自分がどこにいるのだかよく分らなくなってくる。
開演は7時から。その前になんとロビーで出演歌手がサイン付きCDの直販をやっているではないか!わーお、あ・れ・は、Khnah Lyだ!写真とまったく同じだ(^^);;。列を作ってみな一言二言話してはCDにサインしてもらっている。ああ、もっとベトナム語を勉強していればよかった....いいや英語でもなんでも、伝わればいいのだ......CDを一枚購入すると「I Love you, Khnah Ly」とサインしてくれた。そして握手....うれし.....Khanh Lyはあの歌からは想像できないほど細く小柄な女性であった。しかし、落ち着いた物腰に大きく見え、それでも気取りの見えない優しい感じの女性であった。感動(......しかし、このサイン付きCD、一週間後の交通事故のどたばたの中でなくなってしまうのであった.....)。
その外、ロビーで人気だったのはLynda Trang Dai。英語の歌でヒップホップやハウスをセクシーな踊りで歌う女性歌手で、スレンダーな美人だが、女の子に人気があるようで、キャーキャーいわれながらサインしている。Huong Lanは伝統的な歌を歌う女性歌手であるが、彼女も大人気。僕のおめあてNhu Quynhは残念ながら出てこなかった。
7時を少し押して、しばらくすると照明がやや落ちた。拍手が次第に大きくなる。美しい派手な金模様の紫のアオザイの女性が登場する。今回のコンサートの主催Viet EntertaimentのプロデューサーHuyen Tranである。彼女は何も見ずに次々とお礼の言葉を述べてゆく。サンノゼの何何ラジオにシン・カマン、リトルサイゴンの何何プロダクションにシン・カマン.......お、いきなりフロアから花束渡そうとする輩がいる......といっても、必死にお礼の言葉を述べている彼女が気付くとは思えない.....が輩も諦めず花束を差し伸べ続けている.......う〜ん、どこにもクレイジーなファンはいるものだ。警備員がとめに入るまでまったく同ぜず花束を差し伸べていた彼に、ちょっと同感、僕もおんなじようなものかな.......。この間バンドがセッティングを終えている。40団体/人近くにお礼を言い終わると拍手はさらに増してくる。一瞬照明がパっと落ちた。
コンサートの始まりだ。
--第三話--
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