--第話--

アリーナ・コンサート前半部その一




ここではコンサートの流れにそって僕の感想などを書こうと思いますが、バックグラウンドが分かっている方が分りやすくなると思いますので、歌手の皆さんの若干の紹介コメントを一言づつつけ加えておきたいます。
なお、このコンサートの模様についてはVietscapeのホームページ、

(http://209.25.22.56/concert/pics/arena98/index.html)で写真を見ることが出来ます。

この写真は企画側が提供したオフィシャルなもので、コンサートの雰囲気に加えオフステージの歌手の表情などがよく分ります。アオザイをたっぷり見たい方も、コンサートのノリを見てみたいかたも、是非どうぞ。僕は観客なのでカメラは持ち込めませんでしたから、写真はありません。



大きなチョウチョの胸飾りをつけ、白のスラリとしたドレスに身を包み、ステージ横からさっそうと登場したのは司会の女性、Nguyen Cao Ky Duyen。カールの髪をなびかせると、会場から「キャー」と黄色い声があがる。モデル向けファッション写真スタジオの経営から自らショービジネス世界に入った彼女。一言一言、体を乗り出してきびきび話す小気味よいMCが持ち味の女性だ。旧南ベトナムの副大統領の娘さんでもある。僕はまだ聞いていないが、CDのリリースもあるそうだ。

Nguyen Cao Ky Duyenのインタビューです。英語。さまざな領域で活動する彼女が、人生の時間意識について語るインタビューはインスパイアされます。Vietscape提供
(http://www.favorsweb.com/law.htm)彼女は法律事務所を作ったり。多才な彼女に感服

さらにグレーのスーツに身を包みセンターから登場したのは司会の男性、Nguyen Ngoc Ngan。会場は再び拍手に包まれた。彼は旧南ベトナム基地で英語の教師であったが戦後3年間抑留生活を送りベトナムを脱出、マレーシアの難民キャンプで小説を書き始め後にヒット、著作多数。眼鏡の奥の眼差しと表情は固いが、多くを語らないなかにジョークを込め(.....たぶん.....)て大人気の司会者である。

彼の著作であるThe Will of Heavenのレコードです。
彼のオーディオ・ブックスのリストです。

この二人のコンビは実に絶妙だ。Duyenが真面目そうなNganをからかうように話すと、Nganはちょっとテレながらするどい切り返し.....そんな感じで観客はおお受け、大爆笑だ。ときにコメディーを演じたりするのも楽しい。言葉の意味は分らない僕もボディーランゲージのあるMCなら感じることができた。二人のコンビはTuy Nga Production製作の「Paris By Night」シリーズでたくさん見ることができる。ビデオではやや真面目なお二人、特にNganも、生で見るとけっこうおふざけしているようで意外であった。
今回のコンサートでは司会者席に立って話すのではなく、特設ステージらしくセンターに立って手ぶり身ぶりを交えたMCで、より元気のよさがアピールされていた。若者向け志向のコンサートを感じさせる司会だ。

Duyen & Ngan、オンステージ。Vietscape提供

さてトップバッターは98年度北カリフォルニア・ミス・アオザイの8人をバックに、男性歌手Yen BinhとHuy Chuongのデュエット。残念ながらこのお二人の歌手について僕はよく知らない。ということで視線はすっかりミスアオザイに奪われてしまっていて、音楽についてはよく覚えていないのであった....普通のポップスだったよなあ.....(^^);;。あれ、この人たちはさっきまで、客席で案内のサービスをしていた人たちではないか。ミス・アオザイだったのかあ....それはきれいなわけだ.....真っ赤に淡い青、黒、白、黄色のカラフルなアオザイは、花模様あり幾何学模様あり、流れる水の模様あり......花模様の傘を広げてステップ。淡い色の照明にアオザイが生える。ダンスの練習をしているわけじゃなさそうだから、ぜんぜんあってないし、顔を見合わせながらの踊りだけれども、それはお愛嬌。みんな楽しそう。明るい幕開けになった。日本のアオザイ・ファンが見たらきっと喜ぶだろうになあ......。

北カリフォルニア・ミス・アオザイとYen BinhとHuy Chuong、オンステージ。Vietscape提供

司会者が2番手を紹介。女性歌手Truc Linh & Truc Lam だ。
二人は歌う前に観客に向ってお礼の言葉と挨拶の言葉を述べた。こうしてほとんどの歌手は一言二言のお礼やら近況やらを話してから歌い始める。
これまで彼女たちについては一枚の写真とオムニバスCDのなかの一曲しか知らなかった。イメージとしては、ちょっとカラオケチックであんまり歌がいいとは思えなかった。声も曲も外見もなんかピンクレディーみたいだなあとか思っていた。
いざ始まってみて分かった。彼女たちは素晴らしいダンスパフォーマーだったのだ。息ぴったりで、線対称からそのずらし方、ステージングの位置関係まで、まるで立体を描くかのよう。ちょっとロボットライクなラメ地のファッションで、健康的なパフォーマンス。表情は一方はちょっと戯け、一方はちょっとおすまし。姉妹だからよく似ているし、僕はどっちを見ればいいの?2曲。Truc Linh & Truc Lam は姉妹で73年/75年生まれダナン育ち。1992年にサイゴンの歌謡コンテストで優勝し、サイゴン周辺の各地で歌った後、95年にアメリカに移住。とってもチャーミングなお二人だ。

Truc Linh & Truc Lamのインタビューです。英語。経歴、お好きな音楽から食べ物や趣味まで。今後の予定も。Vietscape提供
Truc Linh & Truc Lam、オンステージ。Vietscape提供

3番手は男性歌手Lam Nhat Tien。元モデルの彼はスラリと背の高い26才の好青年。ジャニーズも顔まけの男前だ。これは人気があるわけだ。登場とともに大拍手。しっとりとしたバラッドの演奏が始まり、イントロでブレイク、Aメロに伸びるその瞬間に再び歓声が。高音にのびる時のパンチのある声が魅力的だ。高い視線で向って気持よく歌う姿は実にさわやか。胸に手をあててちょっとなよっと歌う姿はちょっとフェミニンな感じも。ステージングにしても歌い方にしても中国/香港/韓国あたりの男性シンガーの姿を思い出す。曲調もアレンジもモダンなポップスでAORな雰囲気がただよっている。金城武とかお好みの方は要注目のLam Nhat Tien!
アルバムでは語りかけるように優しく歌うことの多い彼であったが、ライブの声ははちょっと違ったイメージで、ガツンとくる。ベトナム語に加え、英語と中国語の歌も歌えるという彼、今後が楽しみだと思う。

Lam Nhat Tien、オンステージ。Vietscape提供
御本人のオフィシャル・ウェブサイトです。
ファンのLam Nhat Tien情報充実ページ

そして今回の僕最大のおめあて、女性歌手のNhu Quynhが紹介された。赤いアオザイをベースに大胆な改良を加えた美しいドレスに金の冠。本物だ!緑色の衣装のダンサー6人とともに登場、リズミカルなダンスチューンが流れだした。ダンサーは細長い二本の棒を使った立体的なパフォーマンスを繰り広げる。ヘッドセット・マイクをつけて踊るNhu Quynhは、ダンサーの間をすりぬけて歌う。ベトナムの民族舞踊が意識されているようでもあり、大胆な脱構築。なめらかな手の動きは、ダンサーのあやつる棒と空で交わりと一つ一つが写真のよう。さまざまなジャンルをこなす彼女は、フエの近くで生まれ、サイゴンの音楽学校を卒業後に音楽を教えながら、1991年のサイゴンの歌謡コンテストで優勝、93年に渡米してから次々とヒットを飛ばす大人気歌手だ。のびとはりに加え表情豊かな声は、本当に素晴らしく魅力あるシンガーだ。

Nhu Quynh、オンステージ。Vietscape提供
Nhu Quynhファンによるページです。プロフィールからファンクラブ情報まで
Chieu NganのCD紹介 Em Van Hoai Yeu AnhBot BienMot Doi Tim Nhau

ここまででちょっとバンドの雰囲気の紹介をすると、ドラムにパーカッション、ギター、キーボードが4台のベースレスの編成だ。ベースはキーボードの一人が担当するか、打ち込みされていた。なぜベースをキーボードで弾くか、打ち込みにするのかちょっと理由が分らなかった。だが今回の旅行で見た他のライブでもベースが打ち込みであることが結構あった。ベーシストがいてもベースが打ち込まれていたりする。Tranzというバンド。

4番手に登場したのはベテラン女性歌手Thanh Tuyenだ。黒のドレスに身を包みゆったりとステージ中央に進む彼女にやわらかな拍手が送られる。そしてはじまるマイナー調のバラッド。きりりとした姿勢を保ち、すべるように静かに右前に進みながら少し物悲しい独特のメロディーがこぼれてゆく。足取りが左に向う。熱唱するわけではないのに、力強い声が届く。7才の頃から歌い続けているベテランのThnah Tuyenは、独特のビブラートでなんとも説明しがたい歌い方が実に魅力的だ。1979年からアメリカで活動中。30年以上にわたる歌手生活の余裕を感じる「歌」一本なステージングがよかった。2曲。

Thanh Tuyen、オンステージ。Vietscape提供

さて次は派手派手パフォーマンスで人気の女性歌手Lynda Trang Daiだ。ハウスミュージックのバスドラムに合わせて5人のダンサーさっそうと登場。そして横から妖しい腰の動きのLynda Trang Daiが。中東の砂漠のなかの月明かりの下で王女様が、みたいなテーマのダンスパフォーマンス。この東洋とも西洋ともいいがたいマージナルなテーマの演出がLynda Trang Daiのお得意なのだろう。今回のそのバリエーションの一つ。英語で歌っていた。10代の頃からオレンジにあるRitzで活躍していたという彼女は若いけれども、作品多数のV-POPのレギュラーだ。

Lynda Trang Dai、オンステージ。Vietscape提供
リアルオーディオで聞いてみよう

照明も曲に合わせて七変化。ステージ脇の巨大モニターには、クレーンの先のカメラや、つるされたライト四方に添えられたカメラ、ステージクルーのカメラからの迫力ある映像が流れている。角度をかえるとイメージもずいぶん変わるものだ。僕の席からはそうした迫力はないけれど、歌手の表情一つ一つが手に取るように分る。外に大きく向けられたPAスピーカーの音は、僕の席には洩れてくる感じだが、ドラムの生音が聞こえ、ときに生の声までマイク脇からもれているのが分る。

観客はスタンディングにはならずとも、一曲一曲には盛大な拍手。好きな歌手が出てくると時折、キャーキャーとはやし立てる声も。「セイコッチャーン」みたいなコールとか横断幕ファンとかいるのかなあと思っていたけど、それはなかった。

さて若手女性歌手のパフォーマンスが続く。Bao Hanが髪をアップにして、ショートパンツにTシャツというかわいいいでたちで登場。ベビーフェイスにますます子供っぽさをだしていて、超かわゆいアイドル状態。軽いアップテンポのポップスと、アンニュイな空間の広がるスローミドルの曲を披露。Bao Hanはオーストリア出身24才。ちょっとドリカムの歌の子に似ている。

Bao Hanのファンクラブのオフィシャルページ
本人もやってきて、本人からの情報もあるというファンのページ。

続くPhi Phiは英語でちょっとゴスペル調バラッドを熱唱。泣きのギターと合わせたアドリブがとってもかっこいい。うそみたいに細いPhi Phi。左手を腰にあて、右手に持つマイクが大きくみえる。ホイットニーヒューストンのようなステージングから、彼女の音楽の好みがよく分る。作曲家の父と歌手で作詞家の母を両親に持つ彼女。モータウンな雰囲気を少し大人っぽく歌うのが魅力だ。

Bao Han & Phi Phi、オンステージ。Vietscape提供
Phi Phi所属のImagine Music Productionのホームページ。Phi Phiのページもある。
Chieu NganのCD紹介 Tinh Muon

バンドは前半、決していいコンディションとはいえなそうだった。モニターがうまく聞こえないのか、ドラムと打ち込みのハイハット、パーカッションがあわない。それがもとで弱気の演奏になってしまって、ややダイナミックレンジの狭い演奏になってしまっているようだ。試し試し演奏している感じになってしまっている。PAも戸惑っているのか、キーボードのバランスも演奏中に取りながらで、ボーカルマイクのエコーもMCとの切り替えに戸惑っている。バンド全体に表情がちょっと暗くなってしまっている。それが歌手にも伝わって歌いづらそうなのが時折伝わってくる。大丈夫か?がんばれTranz!!
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アリーナ・コンサート前半部その一


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