--ヴェトナムの伝統的民族楽器 「ダン・チャイン」十七弦箏--
 「こと」と聞けば、誰もが思い出す懐かしいあの音。しかし、実は「こと」を漢字にすると「琴(こと/キン)」という字と「箏(こと/ソウ)」という字の二種類があって、字の違いによって楽器の種類が異なるんです。それもそのはず、「こと」とは和名ですが、もともとは中国から伝わった楽器だからです。
 「箏」とは右の写真のように、弦をコマ(柱)で張りを作ることによって音程をつける楽器のことです。それに対して「琴」にはコマ(柱)がありません。一弦琴ダンバウは「琴」の漢字があらわすようにコマ(柱)がありませんね。ダン・チャインは「箏」です。
 日本や韓国の「こと」同様にヴェトナムの「こと」も中国から伝わってきた楽器です。しかし、ダン・チャインで中国の音楽を弾くと「なんだかちょっと違うなぁ」と思うものです。それはダン・チャイン独自の文化がなせるわざです。

-ダン・チャインあれこれ-

 ダン・チャインは、古く13世紀頃から使われはじめたと言われています。
 13世紀のヴェトナムは、中部フエ(Hue→右地図参照)に陳(TRAN)王朝という王朝がある時代です。


 「音と映像による世界民族音楽体系、映像解説編3」で、櫻井笙子氏はヴェトナムの民族音楽の歴史を大きく3区分しています。10-14世紀/15-18世紀/19世紀の3区分です。そのなかの第一区分の特徴について櫻井氏は、中国からの独立/チャンパとの接触/宮廷儀式音楽の成立などをあげています。

 ダン・チャインはこうした背景で、王宮の宮廷儀式音楽のために、つまり少人数のアンサンブルによる室内音楽のために使われたようです。ベトナムの室内音楽のことを「Teiu Nhac」といいます。ダン・チャインの繊細さは、こんなところにルーツがあるのかもしれません。
 左下の写真はフエの王様が寝たベッドだそうです。見方によればハンモックですが、なんて豪華なハンモックなのでしょう!宮廷の宴で美しいダン・チャインを聞いた後に、こんなハンモックに揺られたら心地よいでしょうね。



 ヴェトナム伝統音楽の著明な研究家であるチャン・ヴァン・ケー(Tran Van Khe)氏とグエン・ヴィン・バオ氏の部伝統音楽を演奏したCD作品「Vietnam Traditonal du Sud」(Ocra Radio France)では、チャン・ヴァン・ケー氏が楽器の解説をしていますが、ダン・チャインについて簡単な記述があります。

ゴン・ドン(学名 Firmiana Platanifolia)という木でできた共鳴板のついたツィター
がダン・チャインだということです。さらに......


金属弦が木製の駒ではりわたされ.......駒は位置を移動することができ.....
などと書かれています。このあたりは上の写真を御覧になれば分かることだと思います。

 さて、チャン・ヴァン・ケー氏のいうゴン・ドンとはどのような木なのでしょうね?
 ゴン・ドンとは右の写真のような木です。街路樹に使われている木です。たぶん名前ぐらいは聞いたことがあるでしょう。
 ゴン・ドンとは「桐(きり)」のことなのです。「桐」一種で、和名を「アオギリ」いいます。
 街路樹に使われているということは、つまり、固い木であることです。大切な道路を長い間保っておけるわけですから。
 この固い木の素材で、しっかりと共鳴板をつつみこみ、そしてしっかりと、きらびやかな音がするんですね。


 さて、ここでダン・チャインに関する伝説があるんです。ちょっとお披露目してみましょう。ダン・チャイン昔話です。
 むかしむかし、ヴェトナムの王様が中国へ長い長い旅に出ました。王様にはそれはそれは美しい二人の娘がいました。長旅の間、王様はいつもいつも愛する娘の顔を思い出していました。王様は娘たちのために、32本の弦があるこれもまた美しい中国の箏を一つ持ちかえったのです。..........ああ、美しい娘たち、この楽器の音色を、この美しい楽器の音色を聞かせてよりおくれ.........。ところが、あるとき、王様が家に帰ってみると、二人の娘が箏を前に泣き崩れているではありませんか。それはそれは心配した王様。娘を落ち着かせて、聞いてみれば、なんと箏の弾きたさあまりに、けんかになったというのです。王様は迷いました。.........ああ、美しい娘たち、わしはただただこの箏の音色を聞きたいだけなのじゃ。美しい娘たち、わしはどちらに弾いてほしいとはいえない。わしは選ぶことなどできないのだ。この美しい箏を前に、泣かないでおくれ..........。落ち着きを取り戻した二人の娘は、その言葉にまたけんかを始めてしまったのです。そのけんかさえ王様には美しい鳥のさえずりのように思えてしまいます。そのときです。王様は剣を取り出しました。こわがる娘たちも、そして父になった王様にも、目には涙が浮かんでいました。..........ああ、美しい娘たち.........と王様は一言、剣をちからいっぱい振り下ろしたのです。
 さて、この娘たちがどうなったと思いますか? 愛する美しい二人の娘を前に、剣に手をかけた王様がどんなことをしたと思いますか?
 そこで、ダン・チャイン・クイズ〜〜!
 以下の選択肢から答えを選んでみましょう。当たったら次の説明に進みます。

1. 王様は選ぶに選べないので、目をつぶって1人の娘を切り、1人の娘に箏を授けた→(これだと思う人はクリック
2. けんかで箏を聞けないぐらいなら、王様はいっそのこと耳がないほうがいいと思い、自分の耳を切った→(これだと思う人はクリック
3. 美しい娘と美しい箏をみくらべて、せっかくの娘のお土産でも悲しませるよりはと、箏を切りつけた→(これだと思う人はクリック

(伝統楽器 index(Dan Tranh TOP) (BEO RAT MAY TROI Vietnam h.p.

製作/著作

(vietnam@note-to-tone.tv


 copyright 1996-200*_. NCCN. all rights reserved
 許可なく無断引用を禁ズ