興奮覚めやらずの朝。あいかわらず空は雲一つない青空が続いている。カフェでターキー・サンドイッチとエスプレッソの朝食で眠気を冷ます。今日でサンノゼはさよならだ。
12時にサンノゼ国際空港でレンタカーを借りる。一週間のレンタルで、ロサンゼルス空港で乗り捨てだ。H社のカウンターで借りたのは、残念ながらアメ車ではなく、日頃よく目にする日本製T社小型車だった。
コンサート会場でベリー・リトルサイゴンこと「ライオン・プラザ」の場所を聞いていたので、サンノゼを去る前に行ってみることにした。ここではV-POPのビデオやらCDやらがたくさん手に入るということだ。
サンノゼのダウンタウンからSant Clalaストリートを北へ約20分ほど走り、ルート101を少し越えるとTully Road が交差している。Tully Roadをさらに東へ15分、King Road との交差点に「ライオン・プラザ」はあるという。名前から僕が想像していたものは、デパートのようなものか、あるいは郊外型の大きなスーパーやショッピングモールのようなものだと思っていた。
Sant Clalaストリートでもしばしば、自動車修理工場などの街道沿いのベトナム語の看板を目にしたが、Tully Road をKing Street方面に近づいてゆくと、その傾向はますます強くなる。これだけ広ければビルディングの必要もないのであろう。アメリカの郊外らしく、高層ビルディングの少ない敷地に、ベトナム語のオフィスがちょくちょく出てくるようになった。サイゴンの道路を自転車で走った時のことを思い出す。一つ一つの店の構え方と道の構造と混雑さこそ違えども、なんとなく雰囲気が似ていないでもない。よく見るベトナム語のホームページの本拠地らしきオフィスもある。こういうところで作られているのか......。
Tully RoadとKing Road の交差点に、ファミリーレストラン型のベトナム料理屋さんがあった。名前がすごい。「フォー・クイーン」だ。
ベトナム語のフォントに「ライオン」というフォントがあるが、偶然か、そのフォントのような文字で、「LION PLAZA」と書かれた看板がその対面に出ていた。
駐車場に車で入ると、日曜ということもあってか、大混雑。慣れない僕はしばしスペースを後続に譲ってしまったりして、駐車できずにいた。めっちゃ暑い。40度はあるだろう。
車を降りてライオン・プラザへ向う。僕の想像はすっかり裏切られた。なんとその建物は、チョロンにあるビン・タイ市場のような建物だったのだ。ビン・タイ市場のように歴史的な雰囲気や細かな装飾はライオン・プラザにはなく、作られたばかりのようでシンプルなものだが、回廊式に作られたモールだった。
建物は全体がオレンジで色づけされている。屋根の下などに青緑色のストライプが塗られていて、脇の椰子の木と解け合っている。入り口前には、狛犬のように対象にならんだ二匹の白いライオンの石像が。そして門には「獅子城」と感じで書かれていた。
写真:ライオン・プラザの入り口
門の下には銀行と宝石店がある。門を抜けると、円形の広場があり、その周囲の廊下ぞいに店が並んでいるのであった。ビン・タイ市場と違い、二階はなく、大きさもやや小さい。円形の広場も、庭園というよりもパラソルに椅子がならんだ西洋的な公園の雰囲気だ。丸い噴水の池があり、その横では子供が動物のおもちゃに乗って遊んでいる。木の陰で雑談する人たち。ディズニーランドのテーマパークに来たような感覚になった。門正面の城郭にはやはり漢字で「中山堂」と書かれている。その下にはなぜか「Call Me Dragon」...意味不明だ.....。
写真:ライオン・プラザの広場
回廊沿いに歩いてみると、料理店がやや多く、各種洋服屋やテーラー、CD/ビデオ屋、宝石店、美容院、雑貨屋、乾物屋、園芸店、旅行代理店、本屋などがずらりと並んでいる。生鮮品はあまりなく、回廊にちょっとした露天でフルーツを切り売りしていた程度だった。市場というよりは、商店街の雰囲気だ。店のショーウイドーには、ポップや広告、電光の文字看板が出ている。回廊から外にも屋根続きで店がいくつか並んでいる。アニメショップなど趣味のお店もあった。
写真:ライオン・プラザのお店
おめあてのCD/ビデオショップを覗いてみた。このプラザ内だけで4軒ほどもある。店外に洩れてくるシャキシャキしたリズムの音が僕を誘っている。
街のCD屋ぐらいの大きさの店内は、ブルーやグリーンのパステルカラーの蛍光灯で彩られ、ポップな感覚の店内レイアウトだ。表のウインドーやカウンター前には、イベント紹介のポスターや新譜の発売のお知らせなど、ポスターがペタペタ貼ってある。おおっ、このポスター欲しいよ.......。店内奥には大きなモニターからV-POPビデオが流れている。
壁一面にはV-POP CDがジャケットを表面にしてずらり!センターの台には新譜コーナーも。知らない歌手はまだまだいっぱい、アーンド、おおっ、こんなにアルバムを出していただなんて知らなかったよ........。
CDだけでなく、ビデオコーナーやカセットコーナーもある。CDは10ドルぐらいが多く、カセットは5-7ドルくらいだろうか。二枚買うと一枚サービスとか、五枚で何ドルとか、ディスカウント価格は店によって違うみたいだ。CDが豊富な店と、ビデオが豊富な店の違いもあるようだ。入り口近くには安売りCDやカセットが籠詰みセール中。5本で5ドルのカセットは魅力だが、ちょっと古そうなラインナップで、イマイチ魅かれない。
僕はできれば、Tシャツやポスターなどのグッズがあれば欲しいなあとミーハーしていたが、数軒まわるも残念ながら見当たらない。
とはいえ、こんなCD屋があったら僕は毎日通ってしまうだろうなあ。だって置いてあるものみんなV-POPなのだから。
レンタカーにCDプレーヤーは付いていないので、カセットを購入することに。日本ではまだ見ぬHoang Lanの新譜を購入。ドライブミュージックはこれだ。
写真:ライオン・プラザのCDショップ
正面奥の城郭の建物の中は食堂コーナーになっていた。
中央には白い椅子とテーブルが並べてあって、お店は円形の建物を取り巻いて並んでいる。ドライブインの休憩場の豪華版といった感じだ。屋根が高く、天井からドでかいベトナムの絵はがきのような絵幕が釣られていて、ファーストフード感覚と不思議なマッチングだ。日曜昼時ともあって混み合っている。ガヤガヤとセンターホールに響く声は皆ベトナム語で、テーブルには山盛りの添え野菜が残されている。
おのおの好きな店を選んで、お盆を手にとって並ぶ。フォー専門、ジュース専門、あるいは出来合いの春巻き等を並べるお店まで様々。20軒ほど並んでいるだろうか。人気はフレッシュ・ジュースのお店で子供が列を作っている。一・二周して好みの店を探し、フォー・ショップに決め、ベトナム旅行以来口にしていなかったフォー・ガーを注文した。4ドルくらい。席を探すのがちょっとたいへんだ。お盆を持って歩き回っていると学食にいるような気分がしてくる。フォー・ガーのさわやかなスープの香りが鼻をくすぐる。着席してセブン・アップを買って、ずずりとひとくち。面の細さといい、茹でても残る腰といい、おいしい。
写真:ライオン・プラザの食堂コーナー
食堂を出て、いくつか料理屋を見て歩いた。料理屋という言葉が合っているのは、一軒だけで、プラザのなかはどこも気軽な感覚のお店が多い。おもしろいのはハンバーガー屋さんそっくりのレイアウトのお店。座席といい店員の服といい、カウンター上部に貼られたメニューといい、実にアメリカン。でも店内の大きなポスター広告の女性はアオザイを着て料理を出していたりする。
僕はベトナムではよく屋台で食事をしていたのだが、ここプラザのベトナム料理のファーストフード感覚は、屋台のお手軽さと重なって見えた。
ライオンプラザならここで食べよう!
パっとまかれた水が瑞々しい園芸店の緑の苗にはくっきりと濃い影が。原色の映えるカリフォルニアの空の色に、プラザのオレンジ色の建物が引き立つ。気温は高くても汗はかかない、そんな夏の一日だ。
ルート101に乗って僕は次の目的地サクラメントに向った。
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