アリーナ・コンサート前半部その二 |
男性シンガーは若手が多いなかで、口元の鬚がしぶい男性歌手Vu Khanhが登場。ちょっとオペラっぽいテナーボイスで、これぞ歌謡曲といった感じの曲を熱唱。とても濃いい。口ひげの大柄な体格とは対象的な、ちょっと丸いとても優しい目をしていて、こういっては失礼だが、ちょっとかわいらしい表情で歌う。声の太さに勢いがあるが、表情は語りかけるかのようで、身近さを感じる音楽。ポップスってこうだなあと思う。1978年にデビュー。Diem Xua Productionのナンバーワン男性歌手としてソロアルバム多数だ。
Vu Khanh、オンステージ。Vietscape提供
Diem Xua Productionのページ。
曲間には司会が饒舌に冗談を飛ばしていた。.歌手と司会のちょっとしたやりとりも笑いを誘っていた。観客もおとなしく座って聞いてはいるが、ときおりキャーキャーいう声が聞こえ、ノリがよいだけではない上品なショーといった感じだ。
残念ながら僕にはまったく分らなくてちょっと寂しいが、分りたい分りたいと顔をみながら聞いていると、なんとなく分かったような気になるから不思議だ。自然に笑みがうまれてくる。
そして御存じKhanh Lyが登場すると会場の拍手はますます大きくなる。いつものアオザイ姿で登場したKhnah Lyは、みなと同様感謝のMCを少しすると、会場に話をふった。僕はちょっと分らなかったが......どうも「どのキーにする?」と聞いているように思った......Khanh Lyは曲目のリクエストをつのると聞いたことがあったが......1万2千人の観客を包むドームでこうした一人一人の声が届とは思えないが、ステージの一番前で耳に手をあてると、観客があちこちで答えるのだった。上げた手を一ふり、演奏が始まる。他の歌手はシンガーと演奏がくっきり別れていたが、こうした「バンドと共に」の歌は、唯一Khanh Lyだけだった。演奏がしづらそうで、小声の演奏になってしまったバンドに、「大きく、盛り上がって」というように、手で指揮を。すごいことに、この後にバンドの演奏が調子を取り戻すのであった。少ししゃがれた声が、うん、と力をこめて歌い上げるその瞬間、僕は心だけでなく体が、背筋が震えた。知っていたから、見てみたかったから、有名だからじゃない。それなら他の歌手だって知っていたし見てみたかったし、僕のなかでは有名だ。生演奏で、本物、その作品の具現のなかにある音楽完成の瞬間の稲妻が、たしかにあったのだ。
Khanh Ly、オンステージ。Vietscape提供
Khanh Lyのオフィシャル・ウェブサイトだ。
ひとしきり盛り上がったところで、男性の歌手&弦楽器演奏家のChi Tamが登場。よく男性オアザイ着用の写真を見かけるが、今回はジーンズにシャツというインプルないでたちだ。今回のコンサートには民族楽器がない。ポップスのコンサートでもよくみかけるダンバウとダンチャンはステージにはない。ところがChi Tamは伝統音楽的メロディーをソロで歌い始めると、そのバックではダンチャン的な演奏が始まった。なんと、それはチューニングを変えたギターによる演奏であった。エレキ・ギターでもここまでできるんだ!エレアコでもエレガットでもなく、普通のエレキギターで。チャャララララーンという開放鳴らし以外は、みんな表現してしまうのだった。詩吟ひとフレーズごとに拍手と感嘆の声。と同時に笑いも起きているから、歌詞を変えたコントにもなっているのだろう。今回は歌だけであったが、彼はギターの弾き語りで、同じことができるつわものだ。
Chi Tam、オンステージ。Vietscape提供
歌手一人一人に持ち味があり、バラエティー豊かな人選だから歌手が変わるたびにジャンルも変わる。集中して見ていると頭の切り替えがきかず、結構疲れるものだ。もう二時間以上はたったている。
次に、清楚なアオザイで登場したのは、少しふくよかな中世日本美人画に登場しそうな雰囲気のHuong Lanだ。ベトナムCDショップに行くと、並んだ作品の数々に加え、ジャケットに彼女の写真の写るコラボレーション数々から、彼女の人気のすごさがよく分る。しかし、そのスタイルは一貫して、なんといえばいいのだろう....Que Huong ソングとでもいうべきか。アメリカのカントリーとは曲調が全く異なるが、英語にすればカントリーだ。ステージ場の巨大なミラーボールが回転し、線状のスポットがHuong Lanを取り巻くなか、ハイトーンの海の緑のような透き通った声が会場をピンと張り詰めた空気でおおう。悠久の河の流れのようなゆったりとした動きで、ゆるやかな時間の流れをメロディーにのせてゆく。そして正確無比にクウォータートーンをつむぎだす。ベトナムポップスのなかでも、こうしたカントリーソングははよく演歌みたいと言われるが、彼女の歌を聞けばそのイメージが一新するのが分ると思う。シンセサイザーの広がりをバックに、この独特のメロディーが紡ぎ出されるこの個性こそ僕のイメージするV-POPだ。41才。すでに30年以上のキャリアがあるが、まったく年齢を感じさせない竜宮城のお姫様のような素敵な歌手である。
Huong Lan、オンステージ。Vietscape提供
Huong Lanのバイオグラフィーだ。
さて前半のトリは若手人気男性シンガーのDon Ho と若手人気女性シンガーのThanh Haのデュエットだ。細い眼鏡をかけたDon Hoは70年代の映画俳優のよう。そして金色のドレスにサングラスのThanh Haもちょっと懐かしい感じ。そして歌うのはアメリカの古典中の古典のポップソングをそのまま英語で。ステージ狭しに動きまわる二人。本当なら総立ちになって盛り上がってもいいことろだが、観客は全員座って聞いている。拍手とかけ声を求めるが、やや盛り下がりぎみだ。僕もわざわざアメリカまでベトナムポップスのコンサートにまで行って、この曲はなあ、とも思うが、体を動かして音楽を楽しみたいとも思う。立って踊りたいところだが、周囲は座ったまま。ちょっと引き気味で苦笑いの表情のDon Ho.....
Don Ho & Thanh Ha、オンステージ。Vietscape提供
Thanh Haのファンクラブのページ。
ここで15分の休憩のアナウンスが司会から。長丁場だった。
--第五話--
アリーナ・コンサート前半部その二
←戻る/ 目次/ 進む→