フライデー・マジェスティック・ナイト・フィーバー |
出演歌手の名前が書かれたチケットはカウンターで渡してしまったし、パンフは開場に忘れてきてしまったから、誰がステージに立っていたのか、今では分らない。名前を覚えているのはTu QuyenとPhi PhiとChi Tamの3人だけだ。男女半々ぐらいで、ステージの構成は、一・二曲歌っては交代し、それが何度か続く感じだ。出演している歌手がコーラスに回ったりもしていた。
演奏陣は途中でメンバーが変わったりしていたが、基本的には同じ。たくさん演奏してたいへんだと思う。演奏は非常にシャープで、機械のように安定したリズムで耳に安心感がある。V-POPらしい張りのある透明なギターサウンドが渋い。泣きのサックスもグッドだ。
歌手と演奏なんて聞いちゃいないよ、って感じの観客を前に、演奏陣はけっこう好きにやっている。曲が盛り上がるとサンバ・キックでゴーゴーのドラムにベースも負けじと合わせ、パーカッションもサルサみたいに熱くなる。オイオイ、ぜんぜん歌とあってないよ(^^);;、上手いけどさあ、そりゃあ、曲は確かにサビに入って盛り上がっているし、でもゆったりメロディーのV-POPでこれだけやられちゃ、歌いづらいだろうに......でも歌手は知らん顔して歌っている.......踊れればいいのだ。
僕はTu Quyenの大ファンだ。声はよくテレサテンに似ていると言われる。ジュリーのカバーなど日本の古い曲もよくカバーしていて、テレサテンの曲のカバーもある。彼女の情報はあまり知らないが、よくミュージカルには登場しているようだ。
せっかくなので近くで見たいな、と思いながら見ていた。二度目に登場したときは、もう満員の会場で、踊っている人もいっぱい。チャチャチャでカップルが多いようだし、一人で大丈夫かなと思いつつ、二杯目のジンライムの力を借りて僕もディスコ・スペースに行ってみた。前に後ろに動きながらのダンスをよけながら前に進むのはちょっとたいへんだ。といって普通に歩いていると妙だから、必死に動きを真似しながらの牛歩作戦でステージに近づく。皆、実に自然に動いているようでありながら、実際にやってみるとけっこう難しいものだ。ステージ近くは若いひとがみんなで踊っているという感じで、どこも同じだなあと思う。
「うまくできな〜い、はずかし〜」状態だが、まあ誰も知らないことだし....(^^);;。
あこがれのTu Quyenが間近だ!...........けっこう年齢高いんだ.......ちょっと以外。
歌う時の表情のなさが、これまた魅力的。バンドの音をしっかりと聞きながらという感じで、体はピンと背をのばして本当にゆっくりと少しだけ動かしてリズムをとる。ビキニに短パンのファションにはあわないパフォーマンスだったけれど......。時々感想では「イエーイ」とドスの聞いた声で、でも無表情に......おお、なんか恐いけど、はまっちゃいそう。
一度、やってみればもう恐いものはなし。こうしていい感じの曲がかかると踊りにいく僕であった。なかには時々ユーロビートの曲もあって、そんなときは若い人が待ってましたとばかりに、手をあげて腰を揺らして大盛り上がり。Phi Phiはモータウンとチャチャチャが混ざったようなちょっとロック・チックな曲を、すっかり自己陶酔して熱唱して、手を回して観客をあおってる。歌う人も踊る人も、「見せる」を気にせず楽しんでいる姿に爽やかな好感をもてる。こうして延々終ることないダンス・タイムが続いた。いったいいつ終るんだ?時計はすでに12時を差している。
12時を少し越えた頃、これまで声だけだったMCが登場。眼鏡姿のちょっと太めのおじさんだ。しばらく話すと、細めの小さなアオザイ姿の女性が登場して、会場は拍手に包まれた。彼女は少し挨拶すると、自分と同じくらいの大きさの花束をもらった。すごい花束だ。しかもさらに小さな花束が渡されて持てなくなってしまう。そして、テープをバックに古めかしい感じの曲を2曲。きっと歌手の誕生日だったのだろう。
さっきまで歌謡曲をスーツで熱唱していたChi Tamが紹介され、ギターの弾き語りで民謡を。アリーナの時は歌だけだったが、あのダンチャンの演奏をギターの弾き語りでやって、詩吟するのだからすごい。ところどころにお笑いを含めて、観客はヒューヒューと口笛を吹いたりして囃したてる。
詩吟がが終ると、3拍子のワルツを演奏が始まった。会場からきた数組のカップルがディスコ・スペースをいっぱいに使ってダイナミックに回転しながら、ワルツを踊り始めた。とんでもなく上手だ。もうほとんどプロ。会場はさっきまでの熱気を冷ますかのようにこのワルツに見入っている。
ワルツが終ると、さらに大きな拍手でダレスアップした男女が登場。テープをバックに踊る二人は、今度は本当のプロで、小柳るみ子じゃあないけれど、体を持ち上げ、組みを作り、まるでアイススケートを見ているかのようなバレー・パフォーマンス!見事だ。予想外なものが見れてうれしかった。
そうか、このパフォーマンスはさっきの歌手の誕生日プレゼントなんだ、今日はその記念イベントで、客も歌手も一緒に祝福しているんだ、と勝手に解釈して納得する僕。本当かどうかは分らないけど。
しばらくさきほどのようにチャチャチャ&ルンバタイムが復活。もう夜の1時近く。エンドレスなダンス・パーティが4時間も続いている。濃いいぜV-POP、けっこうもうお腹いっぱいだ(^^);;;
さらに、すごいのが登場した。男性、ガタイよし、白スーツ、赤いネクタイに薔薇の胸飾り......のいかにもエンターテイナーが登場した。が、顔は濃い化粧。口紅の口元が開くと、太いが女っぽい声。なんとそれはオカマであった!なよりと体をくねらせ、きっと女性の言葉で話しているに違いない。会場は大笑いに包まれた。
会場を引っ張って引っ張って、歌が始まると、シャンソン風のバラッドを熱く歌う。スピーカーも張り裂けんばかりのテナーヴォイスが会場いっぱいに響き渡る。歌い方も気合い一発!すごいうまい。
2曲こんなバラッドを熱唱すると、やっぱりチャチャチャが始まった。再び会場はダンス・パーティに。オカマちゃんの太い声をバックに、演奏陣、まったく疲れ知らずの盛り上がり。いったいどういう体力をしているんだ....。僕も踊りながら呆然。
さして大フィーバーのなか、おかまチャンのMCがはずみ
「今日の夜の最後は.......ヤングマン!」
ええええ〜〜?!
ま・さ・か....の期待通り始まったのイントロ、ああ、これは、あの懐かしのメロディー。YMCAベトナム語版が始まったのだった。
そして「わーいえむしえ!」の合唱!それに合わせて皆、あの、そうあの、上に手を広げ、頭に手を折り、横で輪を作り、帽子を作って、「わーいえむしえ!」をやっているのだ。お〜い、なんでみんな、こんなの知っているんだよ〜〜。でも僕はつい手が動いてしまうよ、だってにっぽん人なんだもの.......。
いったいアメリカまで来て、V-POPのコンサートに来て、YMCAしている僕っていったい........
フライデー・マジェスティック・ナイト・フィーバーだった。
--第十五話--
フライデー・マジェスティック・ナイト・フィーバー
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