--第十二話--

Ritz/Majestic Club/Terrace Theater




おじさんの書いてくれた地図にしたがって、ブルックハースト・ストリートを4マイルほど北上した。Ritzはガーデン・グローヴのオレンジ・ストリートを越えたあたり左手にあった。赤い平家の建物。夜は光っているのであろう斜めに書かれたRitzの文字。脇にはベトナム料理店もある。
車を降りて、強烈な日ざしの下では埃っぽい地面を歩く。昼間のやや寂し気なナイトクラブの玄関に近づいてみた。フライヤーの類いは何もない。ポスターもないし、落ちたパンフなど見当たらない。ブザーもオフィスもなく、閉め切られたまま。中は何も見えない。
今日は水曜。ショーは木曜から日曜と聞いていたから、仕方ないかもしれないが、結局、なんの情報もなし。木曜日も訪れてみたが残念ながら閉店中で、今回はRitz とは縁がなかった。

「Paris By Night」の会場は「Terrace Theater」という名で、場所はロングビーチにあると書かれている。ここも直接行けばなにか情報があるかもしれない。 ガーデングローブからロングビーチまでの間に、マジェスティック・クラブがあるから、下見を兼ねてロングビーチに行こう。

ロングビーチのオーシャン・ストリートにあるという。ビーチストリートをさらに南下した。
海が見えた!サーフィンのメッカ、ハンティントン・ビーチだ。一号線パシフィック・コースト・ハイウェイ沿いに高くそびえるパームツリー。長く続く白砂のビーチに原色の青の海。おしよせる波が白く割れる。サーフ・ボードを持って歩く人々。濡れた髪と水着が太陽に光ってる。イエーイ!カリフォルニアって感じイ!なんだかどうでもよくなってきた。このあたりで宿でも取ろうかなあ。

一号線をゆったりと走る。ここもいいな、あそこもいいなと迷っていっていると、サンセット・ビーチを超える辺りから次第に沼地が増え、さらに走ると遠くに工場地帯が目に着くようになった。一号線は海岸を離れ、道も細くなり、排ガスに道が曇っている。さっきまでのさわやかさは何処に??気を取り直してTerrace Theaterを探すことに。地図にない一つのストリートを探すのはたいへんなことだ。 一時間半後に辿り着いたオーシャン・ストリートは、高級ホテルやオフィスの林立するロング・ビーチの海際の中心街であった。横浜の港みらいのようななところだった。

小さな映画館だったら....小さなクラブかもしれない......。住所を確かめ確かめ近づいた。おお、こ、これは.....僕の予想を裏切るTerrace Theaterは、巨大なコンベンション・ホールのメイン・シアターの会場なのであった。
電光掲示板に「Paris By Night 15th Aniversary, 25th July」の文字が光る。たしかにここで明後日あるようだ。

僕はV-POPの規模というものが、だんだん分らなくなった。さっきリトル・サイゴンでチケットを書店で購入したとき感じた何ともいえない「小ささ」や、エスニック・カルチャーという語幹に感じる場所の分らなさや点在感覚が、アーバン・シティの夕陽に落とされた長い影に消えていった。

先行予約のチケッティング・カウンターで明後日のチケットのことを尋ねた。

「チケットはない」

仕方なく雑誌の広告に載っていた連絡先に電話すると、そこでも断わられた。

「チケットはない」

電光掲示板にもモア・インフォメーションの連絡先が書かれている。そこに電話をすると

「現在、使われておりません」

ゆっくりとロングビーチに太陽が沈んでゆく..........


--第十二話--

Ritz/Majestic Club/Terrace Theater


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