リトルサイゴン"V-POP"探訪記





--第十一話--

リトルサイゴン・コンサート情報探訪
亜洲商業城ASIAN GARDEN MALLを後にし、ボルサ・アベニューを歩いてみることにした。通り向いには再建中のNew Saigon Mall がある。寺社風の造りのストリートで、壁いっぱいにベトナムの歴史を描いた絵が書かれている。百体ほどの小さな地蔵が立ち並び、屋根の下では将棋に熱をいれる人たち.....チョロンでこんな風景をよく目にしたものだ。ショップは移転中とのこと。時計・パソコン、子供服などが売られているモールは、こざっぱりとしているが造りがやや古い。名前からして、司馬遼太郎が見た「アメリカ社会に入るための清潔さの条件をクリアしたモール」は、これに違いない。

ボルサ・アベニュー沿いを歩くと、2階立てのマンション風のモールがいくつも並んでいる。細長い建物に、いくつものテナントが入った雑居オフィスビルだ。各種代理店から医者のオフィス、文房具屋、印刷屋、花屋、アオザイの生地屋まで様々だ。ハノイの36通りのような専門店街があるわけではなく、こうした雑居ビルがいくつもあるのがリトルサイゴンの風景だ。

ところどころにアオザイの生地屋をみかける。ベトナムの市場にように壁いっぱいのカラフルな迫力はないが、店頭のマネキンが着るアオザイは実に新鮮だ。
亜洲商業城の隣やNew Saigon Mallの脇には、日本でも最近みかけるような郊外型食料スーパーマーケットの類がある。山盛りに積み上げられているのは、ベトナムや中国産の食材ばかりで、まさに圧巻だ。

こうしたモールの正面には、駐車場のスペースとともに、数軒のベトナム料理店が並んでいる。リトルサイゴンだけで、どれだけのベトナム料理屋があることだろう。おそらく百以上を数えるに違いない。

昼食はバインミーで手軽にすまし、ひたすら歩く。

外に出ると小売り店はオフィスビルにみな入っているから、一軒一軒のショーウインドーを見て、V-POPコンサート情報のありそうなポスターを眺める。たくさんのポスターがあるが、それでも簡単には見つからない。何軒、そして何モール歩いただろう。亜洲商業城はもうとうに見えない。

こうしたオフィスビルのテナントにもV-POP CDショップはたくさんある。興味を引いたのは、大手プロダクションのTuy NgaやAsia Entertainmentのアンテナショップ。そこでは当のプロダクションの作品ばかり置いてあるのだった。

途中、書店があったので入ってみた。日本の書店は最近、雑誌屋か?と思わせる店が多く、そういう店ほど派手な場合が多いが、リトルサイゴンの書店はやや地味な感じがする。入った店は雑誌の多い店であったが、同様だった。同じメディアでもCD屋の派手さと比べると不思議に思う。

ただ、リトルサイゴンで雑誌を眺めると、エスニック・メディアという言葉を忘れてしまう。それほどの豊富さなのだ。スペイン語の書籍の数々は地理的な近さからなんとなく分らないでもないが、ベトナムからこれだけ距離を離れてこれだけの品揃えを見ると、リトルサイゴンのパワーを感じる。あるいは現在のメディア製作に関わる技術力は、たしかに距離を超える何かを生み出しているに違いない。ベトナムからの輸入ではなく、リトルサイゴンで発行された雑誌の多いこと。

タイトルを見ただけでは、何の雑誌か分らない僕。そこで、ひたすら立ち読みした。中には歌手がグラビアの雑誌もあって、案の状、音楽雑誌であった。多くは刷色の少ない白黒雑誌だが、なかにはフルカラーの音楽雑誌もある。「ぴあ」のようにイベントが整理された雑誌は見つからなかったが、こうした音楽雑誌あるいはファション誌で、イベント告知の広告を見ることができた。

こうして広告を見て思い出した。メルトモから教わったクラブの名前......Ritz、そして、Majestic Club.....そうだそうだ、こんな名前だった......カンリーの本にも書いてあった、どうしてマジェスティックなんて、誰もが知っている名前をつけなのかって.....。雑誌で先週のイベントの広告を見つけた。しかし、今週は??

しびれをきらした僕はこの雑誌の広告を開いてレジへ。おじさん、おばさんは雑談に花さかせているが、聞いてみた。

「今週の情報、知ってますか?」

おじさんが店頭のポスターを見せてくれた。歌手がたくさん並んでいるポスターだ。

「そうだね〜〜、何があるかな〜〜、これはどう??あ、これはもう終わっているのか........あ、これは今週の金曜だね。マジェスティックであるよ........一、二、三.....12人の歌手がでるね、どうだい??」

僕はソロコンサートに行ってみたかったから聞いたが、それはない、とのこと。ただマジェスティックには是非行ってみたい!

「どうしたら行けますか?チケットの予約はどうしたらできるのでしょう?」

すると、おじさんはカウンターで「行くってさ」と。

あっけないことに、なんとカウンターのおばちゃんは、輪ゴムでまかれたマジェスティックのコンサート・チケットを取り出したのである。20ドル。迷わず買った。

24日の予定ができ、あこがれのマジェスティックがこの手もとに。

店を出て、店名を見て驚いた。これは、天の恵みか、僕は運がよかったとしか思えない。偶然に足を運んだこの書店は、Tu Quynh Booksore and Musicという、書籍販売&CD製作販売&チケッティングを行うメディアショップであったのだ。ここから発売されているCDは多いから、名前は知っていた。まさかこんなこじんまりした普通の書店だとは思いもよらなかった。24日のコンサートチケットの代理もここで行われていたのである。

V-POPのコンサート情報は、クチコミというほど小さくはないが、こうしたコミュニティーショップがアンテナになって情報発信しているようであった。

喜び勇んで店を出た僕だが、まだまだ満足しない。なにせ、わざわざアメリカまで着たのだ。次はもう一つのクラブ、Ritzの情報を集めるしかない。

別の書店にもう一回入って、音楽雑誌を手にとってみた。

だがRitzは住所が書いていない。ここでもRitzのコンサート情報を聞いてみたが、分らないという。ただ、お店の人は場所を教えてくれた。

この書店でもうひとつの発見があった。Tre Magazieという音楽雑誌のバックナッバーを見ていたところ、「Paris By Night」(紅白歌合戦のような歌手のオールスターが登場するバラエティ・ビデオのシリーズ) 15周年記念のイベントが7月25日に開催されると書いてあったのだ。僕のベトナム語理解では、これが新作ビデオの発表会であるのか、コンサートであるのか、いったいどんなイベントであるのか分らない。しかし、Paris By Nightのビデオの収録にはたいていお客さんがいて、スタジオであっても観客がいるのが普通だ。もしかしたら、その場面にで食わせるだろうか??とりあえずは会場の電話番号と住所をメモってみた。

時間はすでに3時半を回っている。リトルサイゴンも相当歩いた。基礎情報もなんとか集めた。

そうだ、Ritzに直接行ってみよう。
--第十一話--

リトルサイゴン・コンサート情報探訪


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