現在、日本に在住する外国人は登録者数で総人口の1%を超え、国内では急激な人の国際化が進展している。この環境変化をめぐり、日常生活上の日本人と外国人の関係や新規来住者と既住者の関係は、模索されつつあるが、次々に浮かび上がるコミュニケーションギャップに関する様々な問題には、解決を待つものが多い。調査概要
日常生活でのコミュニケーションが円滑に行なわれるためには、的確な情報による、相互の正しい認識と理解が必要であろう。現代社会において、マスメディアは生活の指針となる貴重な情報源の一つである。テレビのような映像情報は、印象や価値意識の形成に大きく寄与すると考えられるが、短時間単位の異なった内容がとめどなく展開するテレビ広告は、コミュニケーション場面の宝庫である。
テレビ広告は人の国際化に対応した内容となっているだろうか。例えば、1970年代のアメリカの研究には、公民権運動を背景にテレビ内容の少数派表現が変化を見せたことを示すものがある。そこで、テレビ広告で表現された外国人像の現状を、放映内容に現われた数量的実態や表現姿勢などから明らかにし、足早に迫る「国際化時代の共生社会」を目前にしたマスメディアの外国人観や表現の在り方を考察する。
調査は、在京の民間放送キー局(日本テレビ/TBSテレビ/フジテレビ/テレビ朝日/テレビ東京)計5局を対象として、1995年7月1日(土曜)午前7:00から7月3日(月曜)午前7:00までの週末2日間全日と、7月1日(土曜)から7月7日(金曜)までの1週間の午後19:00から21:00までの時間帯に放映された、全テレビ広告の分析を行った。 調査の項目は、外国人が表現されたテレビ広告を、放送日や時間帯、広告業種によって分類し、人種、性別、年齢、役割、発話言語、行為、登場場面背景などを外国人登場人物全員に対して集計した。結果の概略
深夜の時間帯を含めた全日のテレビ広告の分析研究の事例が少ないことを考慮して、週末2日間全日の調査結果からの報告を中心に行う。
週末2日間全日のテレビ広告は、5局合計で8074本、総放映時間の16.8%にあたる。そのうち外国人が登場したものは17.9%であった。外国人が登場することの多い広告サービスの内容は、飲料類や酒類、家電/AV機器などである。外国人が登場したCMうち、日本が場面として設定されていたものは8.3%と少なく、主に外国か絵や合成画像のなかで登場している。詳細な調査結果は発表当日にデータを示しつつ、報告を行うことにしたい。
登場した外国人は、のべ人数で4004人である。白人登場人物が圧倒的に多く、全体の5割以上にも及んでいる。男女比をみると、アジア人登場人物は女性の人数が多く、その他の登場人物は、男性登場人物が女性の約1.5倍から3倍の人数となっている。 年齢は若年の登場人物が6割強近くに上っている。言語を使用する外国人登場人物は少ない。
白人登場人物が登場する背景は、はり紙やコンピューターグラフィック、アニメーションなど、明確な場所と対応していない場合が多く、文化的な構築物や社会から、部分的に取り出された、行為や存在だけだけで提示された意味内容を提示しやすい。黒人登場人物の男性の職業はほとんどがスポーツ選手であった。ほかの登場人物と比較してヒーローとして登場することが多い。ただ、役割は脇役の場合が最も多い。また広告のなかでも紹介されるという表現のされかたをすることが多い。アジア人登場人物は、外国での生活紹介/外国での文化紹介/日本での生活紹介の場面、経済発展の文脈で登場することが多い。一度にたくさんの人数で登場している場合が多く、個人の見えないアジア人像が現われていた。在日外国人が登場するという文脈のテレビ広告は少なく、日本で活躍するタレントが登場している場合が多かった。
今回の調査では、アジア人登場人物が、過去の外国人像調査研究と比較して、増加している傾向がみられるのが特徴的な部分であった。しかし、全体的な傾向として、多くの白人登場人物は消費社会の主役として個人の存在が映しだされているのに対して、アジア人の場合は、「アジア人」という枠組みが先にたち、人間の持つ多様性が表現されていたとは言い難いものであった。1970年代のアメリカのテレビの内容分析調査でも、人種的/民族的少数派の登場人物の増加傾向が、かえってステレオタイプ化した表現の強調となったことが指摘されている。日本のテレビ広告と現在の内なる国際化との関係は、表現における人数や場面の反映のみではなく、その意識が明確にされなければ、一過性の現象にとどまり、相互理解を促進するきっかけにならないだろう。
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