主に立正大学文学部社会学科の授業で用いられている社会調査のテキストです。質的な調査研究法に焦点を当てて編集されています。
日吉は、第六章の「映像・画像分析の方法と実例」という部分を執筆しています。内容は、メディアの内容分析の方法の解説で、タイトルに「実例」とあるように、実際に行われた調査例を挙げながら説明をしています。
学生さん向けの教科書なので、「実例」には読者と同じ世代の大学生(私のゼミナール履修の学生)が卒業論文執筆の際に行った調査を掲載しました。以前から、研究室のなかだけで眠っているにはもったいない、と思うような資料価値の高い卒論をたくさん目にしてきました。こうした卒論を紹介したい、という思いがあったので、この度、教科書として出版する機会を得ることができ、うれしく思います。
コーディネーターとしてお誘いいただき、いろいろなアドバイスをいただいた立正大学の浅岡隆裕先生には、心より感謝申し上げたいと存じます。
2008年 日吉昭彦
日吉 昭彦
[コラム] 異なる映像の連続が、言語的な機能を持ち合わせることに着目し、映像から作られる意味について考察する方法が、映画研究の領域で盛んに用いられた。映画研究者の淺沼によれば、こうしたアプローチは、映画記号学の試みとして1960年代半ばから広がったものだ(浅沼、1995)。 藤田によるテレビドラマ「ギフト」の分析には、こうした映画研究の方法を現代のテレビドラマの分析に応用するためのアイデアが分かりやすく紹介されている。映画研究の方法だけでなく、文学理論をはじめ芸術領域で培われた人文科学の多様なアプローチで、テレビドラマ「ギフト」の「文法」や「物語の構造」などに迫っていく(藤田、2006)。 メディアのメッセージには独自の「文法」があり、私たちが日常会話で「文法」を意識しないのと同様、分析的にならなければ意識されないものだ。そこで分析的になるための道具として、言語体系に関する学問を応用して、メディアの質的な分析を行うという試みがさまざまに行われている。 個々の映像を単語とするなら、映像と映像の連なりは文章のようなものだ。本のなかの一つの文章が、全体的なコンテクストのなかで意味を持つように、映像にもコンテクストがある。映像のコンテクストを社会的なものと考えるならば、映像の意味を考察することは、社会的イデオロギーの分析にまで広がる。ディスコース分析は、こうしたアプローチの一つだ。 こうしたアプローチを学ぶ格好の教材に、「テレビニュースの社会学」(伊藤、2006)や、「メディアとことば」(三宅ら、2005)などがある。 |
[コラム] 放送領域では、テレビ番組や番組編成を評価する際に、視聴率のような「量」で評価する方法に加え、それに変わる「質」的な評価方法を模索する研究も行われている。こうした研究は、「質」的評価基準を検討するとともに、優れた、あるいは質の高い、という意味で使われる「質」とは何か、についても考えさせられるものである。 日本放送協会放送文化研究所が発行する「放送学研究」第42号は、放送の質的評価のあり方の現状を報告する論集となっている。公共放送が担う役割を考察するなかで導かれた研究成果で、北欧、カナダ、イギリス、アメリカの事例を紹介している。 ここでは全てを紹介しきれないが、ラボイによるカナダの例を挙げておこう。受け手レベルでは「多くの・重要な・特定の特殊な」関心を惹き、送り手レベルでは「高度な作品価値・技術水準・専門的基準」を満たし、政策レベルでは「社会文化的構造を豊かにする・国家意識と文化的アイデンティティを促進させる・公的な目標を反映する」もので、公共サービスレベルでは「適切な社会関心・多様性・多元性・広範囲の意見の反映と受容・さまざまなグループの公正な表現・公共の利益」の確保が、質的基準として考えられていると論じている。 石川・松村は、文化的な違いもあり普遍的な基準は考えにくいが、放送の国際化のなかで、国際的に通用する質的基準の解明は急務だと述べている。 |
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