2003年10月に発刊されたこの本は、兵庫大学の牛木素吉郎先生と、関西大学の黒田勇先生が編集した書籍です。
本の扉に「サッカーのワールドカップは、世界の大衆を熱狂させる地球上で最高のスポーツ・イベントとなった。その陰で新聞、テレビなどのマスメディアはどのような役割を果たしたのだろうか」とあります。メディア・スペクタクルとしてのワールドカップ。そのスペクタクルに大きく二部構成で迫っています。
日吉は、この本の第2部第4章「テレビ中継は何を語ったか ~試合の実況アナウンスの内容分析」という部分を執筆しています。実況アナウンスの言葉を定量的に内容分析した結果を報告しています。地上波で放映されたワールドカップの試合中継のうち、出場各チーム一試合分づつを調査対象に、アナウンスのスピーチを分析しました。アナウンサーはどの選手をどの程度、紹介していたのでしょうか。アナウンスを通じて説明されたモチーフにはどのようなものがあったのでしょうか。実況アナウンサーはどのような知覚方法で選手を言葉にし、説明していていたのでしょうか。それぞれ統計調査によって実証的に明らかにしています。さらに、多変量解析によって、実況アナウンスを通じて現れていたワールドカップ出場各チームのメディア・イメージを分析しています。
本書、第一部はメディアを発信するジャーナリストの視点から・・・メディアとワールドカップはどのようにお互いにサポートしあってきたのでしょうか。サッカーマガジンのスポーツ時評でお馴染み、編者の牛木先生が、ワールドカップのメディア史を分かりやすく解説しています。メキシコ大会「マラドーナ!」5人抜きアナウンスで伝説のNHK山本浩アナは、放送席からワールドカップを伝える仕組みを。「情報は血液だ」「放送席の空気と風」「スピードをあげよ」などの言葉とともに、躍動感あふれる現場を知ることができます。英雄ヒディングはどのように生まれ、その衝撃は韓国でどのように受け止められていたのでしょう。朝日新聞のスポーツ面でいつも的確な論評をなさっている中小路徹さんが、韓国代表をベスト4に導いたヒディング監督の衝撃的な活動を伝えています。共催のパートナーとして韓国メディアはどのように日本チームを伝えたのでしょうか。韓国スポーツToday紙の記者である金徳起さんが、韓国人の目から見た日本代表チームとトルシエ監督について伝えています。
第二部はメディアを読解するメディア研究者の視点から・・・メディアの中だけでしか見ることのなかったフーリガンとは何ものだったのでしょう。編者の黒田勇先生がスペクタクルとしてのフーリガンの実像に迫ります。韓国サポーターの代名詞レッドデビルは、実は企業広告によって作られていた・・開催の前後数年を韓国で研究を続けた同志社大学の森津千尋さんがメディア・イベントとしてのレッドデビルの側面に迫ります。日韓友好、PRODE OF ASIA・・さまざまな言葉とともに日韓関係が語られたワールドカップで、韓国メディアはどのように『ニッポン』を描いたのでしょうか。立命館大学の黄盛彬先生が迫ります。実況アナウンスが伝えた世界を、アナウンスの言葉から読み解くと、どのようなことが分かるでしょうか。日吉が担当しています。ワールドカップとは日韓両国の人々にとって、どのようなイベントだったでしょう。世論調査から同志社大学の尾嶋史章先生と関西大学の小林大祐先生が迫ります。ワールドカップ放映権高騰、冒頭の裏側の事情に何があったのでしょう。NHK文研の曽根俊郎さんが迫ります。その他、東亜日報の金忠植さんや産経新聞の黒田勝弘さんのエッセーも掲載されています。
メディア・スペクタクルとしてのワールドカップ。そのスペクタクルに大きく二部構成で迫る本書、是非、御一読を。
2003年 日吉昭彦
日吉 昭彦
はじめによろしければお気軽にメッセージをお寄せくだされば幸いです。