本発表は、日本で発行されているベトナム語によるエスニック・メディアが、地域メディアとしてどのような役割を果たし、在日ベトナム人コミュニティに対してどのような機能を果たしているのか、インタビューや参与観察などフィールドワークの手法で明らかにするものである。
在日ベトナム人のコミュニティや生活世界、難民をめぐる諸問題に関しては、数多くの研究成果があるが、こうした研究のなかでもベトナム語メディアはあまり着目されず、エスニック・メディアの研究でもベトナム語メディアが紹介されることはこれまでほとんどなかった。しかし、在日ベトナム人コミュニティの理解にためには、ベトナム語による情報提供活動は欠かせない要素である。在日ベトナム人が制作するメディアは、同胞の生活基盤となるコミュニティを創出するさまざまな機能を持ち合わせているからである。また、在日ベトナム人コミュニティは、世界中に点在する海外在住ベトナム人コミュニティのなかの一地域でもある。エスニック・メディアの活動の分析は、難民として定住したベトナム人が根ざす、アイデンティティの基盤ともなる国境や空間を越えたコミュニティ生成の分析でもある。
本発表では、コミュニティ・メディアの総合紙「月刊メコン通信(Nguyet San MEKONG)」、留学生向けの新聞「交流(Giao Luu)」、日本に定住した家族を対象とした文化紹介誌「故郷の響き声(tieng vong que huong)」、カトリック団体が発行する情報紙「教えの言葉に忠実に(Phung Vu Loi Chua)」を取り上げた。現在、日本で発行されているベトナム語メディアは、他に「月刊協会(Nguyet San Hiep Hoi)」や「親善ニュース(Ban Tin Tanh Huu)」「KFCニュース(Ban Tin KFC)」などがある。以上はすべて雑誌やニューズレターの形式をとったペーパーメディアである。