演劇と文化

年度 2010
科目名 演劇と文化
教員名 古川 恆一
授業概要 「二十一世紀最大の武器は、核兵器、科学兵器、細菌兵器といった類のものではなく、おそらくそれは芸術文化と情報になるはずである」とは著名な作家にして劇作家の井上ひさし氏の言ですが、ようやく我が国でも文化・芸術の大切さが認識されてきました。その現われとして、1997年に開場した新国立劇場をはじめ、公立の会館や多目的ホール、劇場といった文化施設も多く造られています。とはいえ、従来の箱物行政の名残り、文化風土の影響もあり、必ずしも運営が成功しているとは言えません。とりわけ問題なのが、建物はあるが、中身がない…ソフトに対する認識不足、人材不足です。そこで近年、アーツマネージメント・プロデュースの存在、重要性が認識されてきています。ではいったい、アーツマネージメントとは何なのか。その必要性は?そして誰が、どう担うものなのでしょう。芸術文化の創造活動は芸術家・アーティストにまかせておけば十分という訳ではありません。あらゆる創作活動にはその中核となるアーツマネージャー・プロデューサーの存在が必要なのです。彼等こそ、芸術家・創造者を創り、芸術家・創造者の頭に宿った芸術的な閃きを作品とし、ビジネスにし、劇場などを運営するのです。この講座では、芸能プロダクションの社員・経営者として携わった俳優を中心としてのタレントマネージメント、企画制作会社での映画やテレビのプロデュース、さらに劇場における演劇プロデュースといった、ジャンル分けのはっきりした日本の業界では珍しい多岐にわたる現場経験、そして今授業はとりわけ、我が国初の現代舞台芸術のための劇場「新国立劇場」の演劇プロデューサーとして、日本初にして巨大な劇場の立ち上げから制作・運営に携わった体験、さらに2010年秋に開場予定の渋谷区立の文化ホール(中小二つの劇場を有す)の開設準備に関わったという経験をもとに、文化・芸術と社会・経済が結びついた実践的アーツマネージメント・プロデュースを考察します。演劇など舞台芸術にあまり触れたことがない、ということを前提に、適切なDVDやビデオの鑑賞を交え、日本の文化・芸能・演劇の歴史、芸術作品がいかに創作されるのか、作品の理解や楽しみ方のポイント、現代日本の芸能社会構造の実態などを、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」をモットーに授業を展開します
授業計画 日本の文化・芸能・演劇の歴史、現代日本の芸能社会構造を踏まえ、公的な文化施設の代表としての新国立劇場を中心に、開設準備に関わった渋谷区の文化ホールなどを交え、アーツマネージメントの必要性、内容、担い手といった問題を検証・考察します。
アーツマネージメントの一環としての、演劇を中心とした映画・テレビにおける実践的プロデューサー・マネージャー論を芸能界の実話・裏話?を交えながら説明し、さらにDVDやビデオで実際の作品に触れながら、演劇などの舞台芸術を中心に、映画・テレビなども含めた表現芸術の楽しさ、人間や社会にとっての大切さを考えます。
評価方法 2回程度のレポート提出と出席を総合的に評価します。
教科書
参考書
メッセージ 早稲田大学の演劇博物館に「全世界は劇場なり」というラテン語が掲げられています。ギリシャ悲劇の昔からというだけでなく、芸能・演劇は人間の根源的な営為であり、劇場は浄化・癒しの場であり、時代や社会・人間の真実を発見する場でもあります。そして世界は、人生は、まさに悲劇あり喜劇あり、虚実皮膜の間にあり、いろいろな役を演じて生きている人間の劇場なのです。「演劇と文化」は各国の独自の言語であるとともにまさに世界の共通言語であり、その教養・センスは国際人としての大きな糧となるとともに、アーツマネージメントの理解・能力はアーツの世界のみならず、実業の世界においても大いに役に立つ武器となることでしょう。