ヤッホ〜、アリーナが近づいてきた |
* * * 「ベトナムの音楽ってどんな音楽なの?」「う〜ん、うまく言えないけれど、ベトナム語の発音って美しくって、それがメロディーに反映していて、なんというか柔らかい感じで.....」
「そうそう、アジアの言葉は発音で意味が変わるって聞いたことがあるけど、日本語はどうなの?」
「そうですねえ....日本語は変わるものもあるけど、変わらないものもあって....そう、ベトナム語の音楽ってその意味で面白いんです」
ロスアンゼルス発サンノゼ行きの夜行バスで、カナダからサンタクルーズへ音楽留学するという人の隣に座った。ギターを抱えてバスに乗る彼はベトナム語のポップスのことをまったく知らない。サンノゼは観光地ではないから、サンノゼに旅行と言うと「なにをしに?」と聞かれこんな話題になった。
「これからベトナム語の音楽のコンサートに行くんです」「へえ、そうかい、そりゃーいいね、僕が聞いているのはスペイン語だよ」
トイレ休憩でひと休みの間、ビールを飲みながらファンキーな言葉で話し掛けてきた彼はサンフランシスコに住んでいるという。たぶん彼もベトナム語の音楽のことは知らない。「まあ、そういうのもあるだろう」って感じだ。ウォークマンを聞きながら「飛行機で来ればよかった」とか言っている。
マイケルジャクソンのコンサートを見にとか、ヴァンヘイレンを見にとか言えば、「ようこそアメリカへ」となるだろうか?
音楽って不思議だ。共通の話題になるようでならず、聞き知る者どうしなら空間を超えた親近感を感じたりする。
* * *
大韓航空で行く空の旅!
ロサンゼルス国際空港に到着したのが7月15日朝。荷物を抱えてロサンゼルスのダウンタウンを一日見てから、この日は宿を取らずにグレイハウンドの夜行バスでサンノゼに向った。夜11時から6時間かけてサンノゼへ。二夜連続座席で寝るのはけっこうハードだった。
サンノゼはカリフォルニア州の中間からやや北側、サンフランシスコから南70キロに位置する人口100万人超の都市エリアだ。サンノゼにはこれといって見どころがあるとは思えない。しかし、サンフランシスコやバークレーなどの人気エリアへも一時間弱とアクセスがよく、モントレーなどの港町にも日帰り可能だ。
ぽかんと真っ平らに広がった都市エリアは、遠く木のない茶色の山々に囲まれたバレーで、のんびり滞在するにはなかなかよい。
写真:サノノゼのダウンタウンから街を望む
コンピューター産業が密集するシリコンバレーとしても知られていて、少し郊外に出ると、街道沿いの広大な土地に社屋を構えるコンピューターメーカーが延々軒を並べている。マックファンの僕としてはクパチーノやパロアルトなどをドライブするのも楽しい。アップルマークのロゴ入りトラックが走っていたりして、なんだかうれしくなる。
EXITEでサンノゼを調べてみよう!(http://www.city.net/countries/united_states/california/san_jose/)
ダウンタウンはこぎれいに作られた街並で、カフェでのんびりするもいい。雲一つない空の下、緑豊かな公園で寝っころんでも心地よいし、ギャラリーを見て回ったりしても楽しい。ダウンタウンエリアにはかわいい列車が走り抜けている。サンノゼエリア自体はとても広いが、徒歩でも十分楽しめる。
今回の目的である「Summer Concert Arena3」の会場「San Jose Arena」もダウンタウンから徒歩20分ほどのところにある。地元アイスホッケーチーム「サンノゼ・シャークス」の本拠地だそうだ。
サンノゼ・アリーナのホームページへ(http://www.sj-arena.com/)
このサンノゼ・アリーナで開かれるコンサートは今年で3回目で、サンノゼ・エリアの定例イベントとなっているようだ。有名なベトナム人歌手が一同に集まるビッグ・イベントだ。このシーズンは旧盆の季節にあたる。例えば各地の日系のコミュニティなどでもイベントがめじろ押し。ベトナム・コミュニティでもそんなタイミングがあるのだろうか。ともかく、僕はこのコンサートの紹介をよくWWWで見るたび、「うらやましいなあ」と思っていたのだった。
Vietscape(http://www.vietscape.com/)による第一回案内/第二回案内/第二回の写真で過去のアリーナコンサートの熱い模様が!
5月の終わり頃、まだ今年のアリーナコンサートの情報は掲載されていなかった。そこで僕は、このコンサートの紹介をしているWWWの掲示板に、冗談のつもりで「今年はアリーナコンサートはいつなのですか?誰が出演するのですか?」と書き込みをしてみた。
すると、とある人から日にちと時間などの情報をE-mailでいただいた。さらにそこにはいまだ未公開のコンサート紹介のWWWのURLに加え、「チケットの発売は明後日である/今年は予想以上の人気」と書かれていたのだった(....行ってみて分かったが、こうしたチケット情報はWWWよりも、雑誌や地元のショップのポスターなどで公開される方が早いのだった.....そりゃそうだ.....)。
WWWをチェックすると、出演する歌手は例年通りスーパースターばかり。チケットは日本のアリーナ席にあたるVIPシートが630枚で50ドル、A席にあたる1stClassが630枚で30ドル、B席にあたるものが5000枚20ドル、C席にあたるものが5000枚で15ドル、当日券は+5ドルと書かれてある。
Vietscapeによる第三回アリーナコンサートの案内はこれ!
チケットカウンターの連絡先一覧もある。だがいったいどうすればいいのだ。支払いは?受け取りは?日本から行くだなんて.....信じてくれるだろうか?ベトナム語は話せないし......ベトナム人でもない....。そんな内容で情報をくれた方にE-mailを再び送ってみた。するととりあえず「何枚欲しいか?預かっておいてあげよう。支払いはまた後に考えればよい」とのこと。こうしてこの方とのE-mail交換が始まった。
僕は一晩悩んだ。アメリカまでの航空券のチケットは安くても5万円はするだろうし、シーズンを考えればもっと高くなっても不思議はない。宿泊代だって考えればいったいどうしてコンサートのためにそんな出費を?
あこがれのNhu Quynhは12月に来日が決定しているし、それまで待でばいいじゃないか?しかし12人も来日しないし、きっとアメリカだからすごいセットとかあるかもしれない。日本でベトナム人が1万2千人も集まるなんてことはまずあり得ないし、ものすごい盛り上がるのかもしれない。僕はベトナムポップスの客層とか知らないから、どんな人が応援しているのか....知りたい見たい!15日以降なら予定をあけることもできる!
「一枚下さい」
なんと、E-mailをくれたこの方、T氏は、当日のコンサートのコーディネーターなのだった。日本からくるキュリアスな僕のためにVIPシートを一枚預かってくれることになった。「サンノゼに到着したら電話をするように」とのこと。たぶん僕が本当に来ると思ってはいなかったかもしれない。
*
サンノゼのダウンタウンに宿を取り、さっそくT氏の電話番号のメモを取り出した。そう今回は着替えとT氏の電話番号のメモ、それだけを持ってアメリカまでやってきたのだった。緊張が走る。果たして本当にT氏という人物はいるのだろうか?そして連絡がとれるのだろうか?チケットは本当にあるのだろうか?.......日本でもさんざんおどかされてきた......フランスのワールドカップでの出来事が脳裏をよぎる。
電話番号を押す。耳に響くのは違う国の電話の呼び出し音。妙に落ち着かないものだ。緊張が一気に高まる。その瞬間、
「allo」
T氏だった。
最初は、僕がT氏の名前を英語読みしてしまったため戸惑っていたが、
「Aki from Japan」
にすぐ分かってくれた。
「本当に来たんだ!?」と。
「チケットはあるから安心して/今シンガーと連絡中だからまた後で電話する」と。
...........アリーナが近づいてきた!
E-mailでは数人で夕食を食べるからそのときにチケットを渡そうか、という話になっていたが、直前でT氏が忙しかったためお流れに。当日、会場の前で待ち合わせをすることになった。
夜、サンノゼアリーナに行ってみた。銀色に光る近代的で巨大な建築。ガラスで作られたロビーから照明が洩れて周囲を明るく照らし出している。
--第一話--
ヤッホ〜、アリーナが近づいてきた
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