シンポジウム 「 生活習慣病を考える 」

上智大学教授 土屋隆英
文教大学女子短期大学部 健康栄養学科教授 中島滋

 我が国は長寿国であり、高齢化社会への対応が必須であります。また糖尿病や虚血性心臓疾患等の生活習慣病の増加への対応も求められています。したがって、生活習慣病を予防することと、老化による疾病を少なくすることの重要性が認識されてきました。健康栄養学科では食生活や運動などの日常生活を通じて生活習慣病を予防する「予防医学」の充実を目指しています。このシンポジウムでは、魚介類の摂取が生活習慣病の予防にどのように寄与しているかを、シンポジストの研究結果を中心に検討します。なおこのシンポジウムは上智大学教授土屋隆英氏と健康栄養学科長中島滋の対談形式で行います。

1.魚介類の脂質成分の有用性

 「魚を食べると体によい」とか「魚を食べると頭が良くなる」などと言われており、魚の摂取と健康との関連が注目されています。これは主に魚の脂質成分である、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)の生理作用に起因しています。まずこのシンポジウムでは、EPAとDHAに着目し、それらの生活習慣病の予防に寄与する生理作用(動脈硬化防止、心筋梗塞防止、糖尿病防止、記憶力向上作用等)について検討します。また、魚介類中のEPAとDHAの分布について解説します。一般にEPAとDHAは酸化されやすく、調理や加工により減少しやすいと考えられていましたが、食品中のEPAやDHAはかまぼこ等の加工工程を経ても多く残っていることがわかってきました1)。したがって、新鮮な魚介類はもちろん、調理・加工した魚介類もEPAおよびDHAの有用な供給源であると考えられます。

2.魚のタンパク質成分の有用性

 日本では欧米と比べると肥満者が少ないことが知られています。この一番大きな要因は、過食が少ないことであると考えられます。我々は過食の原因として、満腹中枢による食欲コントロール機構に注目しました。近年、脳神経化学の分野でヒスタミンの抗肥満作用が注目されています。脳の視床下部にある満腹中枢の一つであるヒスタミンニューロンがヒスタミンにより刺激されると満腹感を感じて過食を防ぐことが明らかになりました。ヒスタミンは赤身魚のタンパク質などに比較的多く含まれているヒスチジンから変化したと考えられます。そこでヒスチジン摂取と摂食との関連を明らかにするために、食事調査を行いました。その結果、タンパク質摂取量当たりのヒスチジン摂取量(タンパク質中のヒスチジン含量)が高くなるとエネルギー摂取量が低くなり、過食を防げることがわかりました2,3)。

参考文献

1) 中島滋、松下至、二宮順一郎、平岡芳信、土屋隆英 : 揚げかまぼこ製造工程におけるEPAとDHA量の変化, 日本水産学会誌 1994; 60, 391-392.
2) 中島滋、濱田稔、土屋隆英、奥田拓道 : 低エネルギー摂取者に観察されたヒスチジン高含有タンパク質摂取による摂食抑制, 日本栄養・食糧学会誌 2000; 53, 207-214.
3) 中島滋、田中香、濱田稔、土屋隆英、奥田拓道 : 瀬戸内海浜地区の女性におけるエネルギー摂取量とヒスチジン摂取量との相関, 肥満研究 2001; 7, 276-282.

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