序文

情報システムは、ますます高度化する情報社会において欠かせない存在になっている。本書は、情報システムへの認識を新たにし、その研究・教育体系の確立の必要性を述べ、モデルカリキュラムの枠組を提案するものである。
組織体または社会にとって、さらには個人にとっても、情報システムは不可欠である。組織体を構成する部門あるいは人々のあいだの相互の関係およびそれらの果たす業務の取り決めを組織というとき、組織それ自身を情報システムの観点から捉えることができる。情報システムは、その組織体の基本業務に関する情報の処理を行い、組織体内部およびそれを取り巻く環境の動向または異常を検知し、それに基づいて行う意思決定を助け、またその決定を適切な部署に伝達するために必要とされる。
組織体の活動を充実したものにすることを目指し、コンピュータの出現で刺激され発展した情報技術を取り入れることにより、いかにして新しい情報システムを生み出すことができるかが、現在われわれの当面している課題である。
それは、従来の組織の一部を単に情報技術を用いたシステムで代替するものに過ぎないかもしれない。あるいは、新たな組織を創造することにつながるかもしれない。
このような新しい情報システムの企画・開発・運営に携わる専門家は幅広い知識と能力を備えていることが要求される。そのためには、これまでのさまざまな分野の学問を単に寄せ集めたものではすまされない。個人あるいは組織体の情報要求や情報行動の考察をもとにした体系をまとめていく必要がある。これは「情報」と「システム」の視点に立った新しい学問の確立につながるものといえよう。『情報という目で世の中を見直すと何か新たなものが見えてくるに違いない』と信じたい。
本書でのカリキュラム試案がこのことに十分に応えているわけではないが、その方向に向かっての第一歩のつもりである。
本書は第1部、第2部および補遺から構成される。第1部は情報技術の発展によって、個人生活、社会の姿、そして企業活動がどのように影響を受けてきたかについて考える。第2部は、諸外国を含め情報システムの研究・教育に関する動きを述べ、あわせてわれわれの情報システムへの考え方や見方から見て、教育に取り上げるのが望ましいと思われる学科目を対象にしたモデルカリキュラムの枠組を提示する。この枠組はわれわれの意図を十分に反映するには至らなかったが、その方向への第一歩ではある。
補遺では、本書の共同執筆者の一人である三森が描くユニークな情報システムの姿が示されている。そこには、新しい時代を切り拓く情報システムを構想し実現してきた体験から生み出された未来への展望が感じ取れるであろう。
さらに、本書とは別に、モデルカリキュラムの学科目内容をインターネット上で公開している。これらの内容は、情報技術の発展、また社会へのその浸透度に応じて、変化することが予想される。
私たちは、1992年から2年間にわたって文部省の科学研究費補助金の助成を受けて、「情報システムの教育体系の確立に関する研究」を行ってきた。その後も、引き続き研究会を開き、討議を重ね、本書をとりまとめるにいたった。
なお、本書の内容およびモデルカリキュラムを構成するにあたっては、小幡孝一郎、佐藤修、高木晴夫、福川忠昭、真鍋龍太郎(50音順)の各氏から貴重なご意見、ご助言をいただいた。こうした協力なしには、本書の完成はおぼつかなかったであろう。また、出版に当たっては、培風館社長山本さん、編集部長村山さん、編集部久保田さんのご好意とご尽力があったことを付記して、感謝の意を表する。

1998年1月

編者代表 昭二

 

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