食生活調査・健康調査の分析

 文教大学健康栄養学部では脂質異常症に関する研究を行っています。その中の一環として、茅ヶ崎市の勤労者および文教大学の学生を対象に、どのような食生活習慣が健康に影響を与えているかを調査しました。その結果から食事を中心とした生活習慣の改善が健康維持に有効と考えられるいくつかの要因が明らかになりました。
 茅ヶ崎市が行っている健康に関する講習会(講演、栄養教室など)に参加した女性(40代~60代中心)125名にお願いをして、食生活と健康に関する調査に答えていただきました。その結果、いくつかの興味ある結果が観察されました。概略をここに報告します。

食生活がQOLに影響する要因について ― 参加した茅ヶ崎市民の調査から ―

 QOL(Quality of life)の概念は医療領域に限らず一般社会でも使われるようになってきている。これは、ひとりひとりの人生や社会的にみた生活の質を指し、どれだけ人間らしい、自分らしい生活を送り、幸福を見出しているか、ということを尺度としてとらえる概念である。「幸福」とは、心身の健康、良好な人間関係、やりがいのある仕事、快適な環境、十分な教育、レジャーなど様々な観点から計られる。QOLに影響するものとして年齢、判別、職業、家族構成、持病の有無、地域性、運動習慣、そして食事等の生活習慣が挙げられる。その中でも食生活が身体的、精神的に与える影響は大きく、人の健康に深く関係していることは多くの報告がある。食生活の見直しによってQOLが改善され、またQOLの評価が食生活の改善に利用されている。

 今回の食生活調査では、食品の選択、食物摂取のバランス、食事の形態、好き嫌い、食事の規則性、食事時間、間食について33個の質問を行った。

 また健康に関する調査では、臨床的に使用されている8つのQOL尺度を持つSF36(medical outcome study short form-36, 日本語版version1.2)のアンケート調査を用いて行った。SF36は健康関連QOLを測定する尺度として、現在25カ国以上で翻訳利用され、薬剤、サプリメント効果、免疫療法の効果、アレルギー疾患との指標として用いられている。

 8つの尺度は、①身体機能(Physical functioning:PF):重いものを持ったり、体を曲げたり、歩いたりする時の身体的尺度、②日常役割機能(身体)(Role physical:RP):普段の仕事や活動を行うに当たっての身体的健康尺度、③体の痛み(Bodily pain:BP):体の痛みに関する身体的尺度、④全体的健康観(General health perceptions:GH):比較的広い範囲の身体的健康度を評価する尺度、⑤活力(Vitality:VT):やる気等、⑥社会生活機能(Social functioning:SF):人との付き合いなど比較的広い範囲の健康尺度、⑦日常役割機能(精神)(Role emotional:RE):仕事や普段の活動に対する集中度を示した尺度、⑧心の健康(Mental health:MH):精神的健康度を評価する尺度の以上8つである。さらに8個の尺度をまとめ、身体的な総合的健康観(PCS)と精神的な総合的健康感(MCS)で尺度を求めた。

 講習会に参加した人の食生活調査結果から主要な10要因を見つけ出した。これらの要因について傾向の高い人と低い人に分け、QOLの8つの尺度の平均値を求めた。その結果、特徴的に見られたことを次ページ4つの図に示した。平均値の計算は膨大な先行研究により検討、作成された方法で行った。また図中の「日本人の平均」は2002年の国勢調査資料(20~50歳の男女3,000人)をもとに計算されたQOLの値である。

図1  図1では、食事の前後でお菓子を食べたり、間食をする機会が多い人は、そうでない人と比べ、普段の仕事や活動を行う時の、身体的日常役割機能(RP)の平均値は高いが、精神的健康度を示す心の健康(MH)の平均値が低いことが観察された。年齢層の低い本学学生の調査結果では、お菓子を食べ、間食する機会の多い人も、そうでない人もQOLの有意差は見られなかった。このことから、ある年齢以上になると、間食をする習慣が心の健康に何らかの影響を与えていると考えられ、大変興味深い。

図2  図2では、食事の用意に時間をかけ、栄養のバランスを考え、特に塩分の多い食品は減らすようにしている人では、そうでない人と比較すると身体機能(PF)、社会生活機能(SF)が低く、日本人の平均値より低くなっている。このことは、逆にQOLが少し思わしくないので、食事に気を付けていることが窺える。学生での調査でも同様な結果が出ているが、以前に実施した茅ヶ崎市勤労者対象の調査では、栄養バランスを考え、塩分を控えめにしている人は全体的健康観(GH)、活力(VT)、心の健康(MH)の尺度が高く、食生活に配慮した結果がQOLに表れていた。今回の調査対象者は、健康に関する講習会に参加した40代~60代の女性であり、我々が以前に行った調査の対象者と性別、職業が異なっていたので、QOLが思わしくない結果、食事に気を付けている結果になったことが考えられる。

図3  図3では、好き嫌いがはっきりしているが、野菜をよくとり、珍しい食品を食べることがあまりない人は、全体的健康観(GH)、活力(VT)が低く、好き嫌いがあり、野菜中心の食生活では、活力が減少することが推察できる。

図4  図4では、「魚料理より肉料理が多い」、「大食い」、「外でおかずを買ってきて食べる」、「野菜はあまり食べない」等の食生活が当てはまる人の方が、当てはまらない人より身体的な総合的健康度(PCS)が高いことが観察された。この結果は図3で示したことと同様に、食事に配慮していない人が健康だと言うことではなく、健康度が高いので、食生活への細かい配慮が低くなっていることが観察されているのではないかと思われる。いずれにしても将来を考えた健康維持のための食生活が大切である。